なぜ「内音声のスピード」が読書のネックになるのか?
速読を学ぼうとしたとき、最初に出てくる誤解の一つが「頭の中の声(内音声)をなくせば速く読めるようになる」という考えです。
確かにほとんどの速読法では、「内音声化の癖があると速読ができない」と言われています。でも、実際のところはどうなのでしょうか?
本を読んでいるとき、私たちの頭の中には自然と“声”が再生されています。これは、自分が文字を「音」に変換して理解しようとしている証拠。つまり、内音声とは「理解のためのナビゲーター」なんですね。
だから、これを無理に消そうとするとどうなるか。読めた気がしているけど、内容がまったく頭に残らない。そんな状態に陥ってしまうのです。
速読に挑戦しても挫折する方が多いのは、ここに原因があると思っています。
では、どうすればいいか?
答えはシンプル。
「内音声を消す」のではなく、「内音声化のスピードを速くする」のです。
そのための方法を、これからご紹介します。
内音声とは何か?そして、速読ではどう扱うのか?
内音声とは、「黙読しているときに頭の中で聞こえる自分の声」。例えば、試験勉強中や小説を読んでいるときに、自分の中で誰かが朗読してくれているような感覚、ありませんか?
それがまさに内音声です。
速読では、視線のスピードばかりに注目されがちですが、実はこの「頭の中の声」のスピードがボトルネックになることが多いんです。
どれだけ目が速く動いても、頭の中で文字を読み上げるスピードが遅いと、情報処理が追いつかない。これが、「速読しても意味が入ってこない」「読んだ気がするだけ」という感覚の正体です。
内音声のスピードを上げるトレーニング
まずやるべきことは、「自分の内音声に気づくこと」です。普段、私たちは無意識のうちに内音声を使って黙読しています。でも、自分のその“頭の中のナレーション”がどんなスピードで、どんなリズムで進んでいるかって、案外知らないものです。
黙読観察ワーク
- まずは好きな本や雑誌を1ページ、いつも通りに黙読してみましょう。
- その際、「自分の頭の中の声」に耳を澄ませてみてください。
- どんな声でしょう? ゆっくりと丁寧に読むタイプ? それとも早口?
- 音読と比べてスピードはどうか? 抑揚やリズムはあるか?
この段階では、「速く読もう」と意識する必要はありません。あくまでも、自分の読み方の“癖”を観察することが目的です。
ここで思い出していただきたいのが、前回の「視点の移動スピードを速くするトレーニング」です。あの練習では、メトロノームのリズムに合わせて、目を1行内で「1→2→3→4」とスムーズに動かすことを意識しましたね。
今回のトレーニングでは、その動きに「内音声」を重ねていきます。つまり、視線のリズムと頭の中の声のリズムを一致させるのです。
やってみよう:視点と声のリズム合わせワーク
- 1行を4つに分けてイメージします。
- メトロノームを4拍子に設定(テンポは60くらいから)
- 「カチ・カチ・カチ・カチ」に合わせて、目を1→2→3→4と動かしながら、その箇所を頭の中で読んでいきます。
はじめはゆっくりでOK。目の動きと、頭の中の音読がズレないように意識してください。このステップで大事なのは、「目と頭の声がセットになって動く」感覚をつかむこと。音読のようであり、でも声に出さない、まさに「黙読ナレーション」の訓練です。
さあ、ここからが内音声トレーニングの核心です。
リズムを保ちながら、少しずつ内音声のスピードを上げていきます。
やってみよう:高速黙読トレーニング
- 1行4分割のまま、メトロノームのテンポを少し上げていきます(65→70→80…)
- 自分が「ギリギリ理解できるスピード」まで試してみましょう
- その“限界よりほんの少し速い”テンポで、5〜10ページほど黙読してみてください
このとき、最初はちょっと苦しく感じるかもしれません。でも、まさにその「ちょっとキツい」くらいがベストです。スポーツでいえば筋トレのようなもの。筋力をつけるには、負荷をかけて反復するしかありません。
内音声のスピードも同じ。負荷をかけて読めば、確実に鍛えられていきます。
内音声を速くすると、熟読そのものが速くなる
このトレーニングで得られる最大のメリットは、「熟読のスピードが速くなること」です。これができるようになると、読書の世界が大きく変わります。
たとえば、
- 仕事で扱う重要な契約書や提案書
- 資格試験のテキストや法律文書
- 分厚くて難解な専門書や学術論文
こうした「速く読むだけでは意味がなく、しっかり理解が必要な文章」では、どうしても熟読が必要になります。情報の密度が高い文章を、内音声のスピードに乗せて“高速で熟読する”ことが重要なのです。
速読の本質は、「読み飛ばす」ことではなく、「理解のスピードを上げること」。そしてそのカギが、内音声を鍛えるこのトレーニングにあるのです。
よくあるつまずきとその対処法
理解が追いつかなくなる
これはとても自然な反応です。
無理に「意味を完璧に理解しよう」とせず、「理解できるギリギリのスピードで慣れていく」ことが大事です。
また、「意味のかたまり」で読む意識も、理解力アップにつながります。
内音声が速くならない/口で読んでしまう
まずは実際に声を出して音読してみて、そのスピードを黙読でも再現する練習をしてみましょう。
「音読→黙読→高速黙読」という段階を踏むと、内音声がスムーズに速くなっていきます。
習慣化のコツ|毎日の読書に取り入れてみよう
- 本を読む前の「ウォーミングアップ」として1日1分でもOK
- メトロノームアプリを活用すれば、場所を選ばず実践可能
- リズムが身につけば、読書のテンポが自然と上がっていく
「読むスピードが上がったのに、ちゃんと理解もできてる」そんな実感が得られるようになるはずです。
次のステップ:文章構造を素早くつかむ力を育てよう
内音声が整ってくると、文章のテンポに“乗れる”ようになります。すると次に必要なのは、文章全体の構造を素早く見抜き、「何が言いたいのか?」を的確につかむ力です。
いわば、単語や文のレベルから、「段落」「全体の流れ」へと視点を引き上げていく段階です。
次回は、「文章構造を素早くつかむトレーニング」。読解力と速読力を結びつける、いよいよ本格的な実践編に入っていきましょう。
▶ 次のページ「文章構造を素早くつかむトレーニング」へ進む
よくあるご質問(FAQ)
A: 内音声を速く・滑らかにすることで、「読むスピード」と「理解力」が両立できるようになります。
これにより、小説や実用書はもちろん、仕事の書類や資格試験のテキストなどの“熟読が必要な文章”を、より短時間で効率的に読めるようになります。読むこと自体が楽になり、集中力も続きやすくなります。
A: メトロノームを使い、視点の移動リズムと内音声を一致させるトレーニングが効果的です。1行を4分割して黙読し、徐々にテンポを上げることで、内音声を鍛えることができます。音読→黙読→高速黙読という段階を踏むのもおすすめです。
A: はい、多くの場合「目は速く動いているけれど、頭の中での理解が追いついていない」ことが原因です。
その理由は、内音声のスピードが遅いこと。内音声を速くするトレーニングを取り入れると、読むテンポに理解がついてきて、速読中でも内容が頭に残るようになります。